テーマ本の紹介
『子どもの貧困-日本の不公平を考える』

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『子どもの貧困-日本の不公平を考える』(阿部 彩 著、2008年12月、岩波新書)

著者・阿部彩さんは、昨年12月に当センターで開催した男女共同参画時事セミナー「格差社会と女性・こどもの貧困」でご講演くださった方です。今回、このブックレビューを書くにあたり、その阿部彩さんの名前を広く知らしめた本ともいえる表題の本をあらためて手にとってみました本

新書という手軽なボリュームでありながら、盛り込まれているデータの量、そして阿部さんの指摘内容とそこから読み取れる日本の現状や、本書のテーマに対する日本人の意識などをえぐりだす文章に圧倒されました。格差や貧困は、ここ数年でようやくテレビでも取り上げられるようになってきました。私もそんな報道などで聞き及んでいたものの、それが子どもの世代にどのような影響を与えているかまで深く知ることはありませんでした。

「一億総中流」という考えのもと、目をつむり、「あるはずない」と考えてきた多くの人に、阿部さんは現在の日本の状況を冷静に分析しながら「一億総中流」という考えを否定し、厳しい貧困の存在を明らかにしていきます晴れ

メディアで取り上げられているような格差や貧困の存在という表面的な事実を知るだけでなく、それが世代を越えて未来に及ぼす影響についても書かれており、問題の深刻さも相当なものだということが理解できました。

貧困や格差を社会的な問題として認めないかぎり、それに向けた対策や行動に結びつけることはできないのではないかと思います。この本は、その点での目をさまさせる「強い薬」ともいえるかもしれません。現在の状況を経済力をてこに改善をしていけると思いがちですが、相対的貧困状態が世代をこえて影響しつづける「連鎖」がだれにでも起こりうる身近なこととして語られています。

日本にはない養育費の徴収は、多くの先進諸国で制度化されており、税金の支払と同様の感覚で養育費が支払われています。こうした日本にはない発想に触れることで、「日本人に社会制度を支え合う意識が欠如しているのではないか?」ということを問うているようにも思えます。

給食費未払いの問題も一部の親を“モンスターペアレント”として描き、報じるメディアへの一方的な情報依存をただし、相対的貧困層がその支払いに苦慮する社会状況まで深堀りできるような視点を持つことが必要性なのではないかとの指摘も納得できます。

こども手当てや社会保障費など、人々の生活に直結する政策をめぐる議論は今も活発です。しかし、著者は社会保障制度や税制度によってOECD諸国の中で日本だけが受給後に貧困率が上昇しているという調査結果を明らかにしています(P.96)。この指摘が、本書のハイライトでもあると思われます。

このようなことから、この国の社会保障システム全体の再構築が求められているのではないかと読み取ることもできると思います。少子高齢化をただ嘆いていても状況は改善しません。一読者として、冷静に事実を受け止めることからはじめることが大切だと感じると同時に、当センターにはどのような取組みが求められているのかに思いを巡らせています。(N)


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