かわさきの職業人インタビュー(服部エレンさん)

仕事は自分の軸をつくってくれるもの


神奈川新聞社
総合編集局報道部
服部エレンさん

 服部さんは大学卒業後、2009年に神奈川新聞に入社され、県警のほか横須賀、川崎エリアの担当を経て、2014年の4月から約1年間、育児休暇を取得し、2015年の4月に職場復帰。取材時は報道部に所属されており、関心のある「セクシュアルマイノリティ問題」や「若年性認知症」について長期にわたって、取材をされていた。
 「仕事が好きで育休中も早く復帰したくて落ち着かなかった」という服部さん。仕事への想いや家庭生活との両立について、お話を伺った。

生きづらさを感じている人に光を当てたい

 服部さんは高校生の頃から新聞やニュースを読むのが日課で、世の中で起きている事柄に関心が高く、漠然と報道に携わりたいと考えるようになったそうだ。大学生になり、就職活動を始めた際、様々な仕事に触れる中でやはりメディアの仕事に魅かれたことから「自分の関心のある分野はこれだ」と報道の道への思いを強くしていったという。「どこか社会で生きづらさを感じている人や、理不尽な目にあっていながらも知られていない人たちに光を当てて伝えられる仕事なのではないか、と思って報道の仕事に就きたいと思ったんです。」と語る。

マイノリティ問題がライフワーク

 服部さんが所属している報道部の遊軍担当とは、いわゆる何でも屋で、自分が気になるテーマを掘り下げて取材を行っている。遊軍に配属になってからは、自身のテーマとしてマイノリティ問題について取り上げているという服部さん。なぜマイノリティ問題をテーマにしているのか伺うと、人生の転機になった出会いのエピソードを教えてくださった。
 フランス人の母親と日本人の父親をもつ服部さんは、高校卒業までを秋田県で過ごした。当時は、外国人の親を持つ子どもが珍しく、奇異の目で見られることがあり、生きづらさを感じることも多かったという。その後、性同一性障害(体は女性、心は男性)の人と出会い、彼も同じように生きづらさを抱えていることを知り、自身のマイノリティの生きづらさと重なった。この出会いがきっかけとなり、服部さんはセクシュアルマイノリティについて考え始めるように。しかし、記者になってからはセクシュアルマイノリティについて記事を書きたいと思いつつも、どのように取材に踏み出したらいいか分からず悩んでいたという。そんな中たまたま平日に休みをもらったことから足を運んだセクシュアルマイノリティ関連のイベントで、横浜市で活動する支援団体と出会った。もともと勉強のために参加したイベントで、記事にするつもりではなかったが、読者に伝えたいという思いが強くなり記事にすることに。記事にする過程で、支援団体に問合せをするうちにつながりができ、人との出会いが広がっていった。この経験がライフワークを見つけるひとつの転機となったとのこと。「少しでも関心のあるイベントや取り組みがあったら、迷わず足を運んでいけば、出会いがあったり、次の取材につながったりすることも学べた。マイノリティ問題については、これからもライフワークにしていきたい」と語っていた。

働く上で大切にしていること

 とにかく仕事が好きと話す服部さんに、仕事のやりがいを伺うと「記者は人があって成り立つ仕事。自分が生きてきた中で見聞きしたことだけじゃなく、色々な気づきを色々な人たちから与えてもらって、いかに社会が多様な人でつくられているかを実感できるし、視野もすごく広がる。人との出会いがやりがいにつながります。」とイキイキとした表情で話してくださった。また、インターネットが普及したことにより、自分の書いた記事が神奈川だけでなく全国に広がっていくことや、取材をした方から「記事にしてくれてありがとう」という言葉をいただけたときは人の役に立てたことを実感でき、とてもやりがいを感じるという。
 記者という仕事を始めたばかりの頃は、県警担当で横浜北部エリアの10カ所を管轄していたため、死亡事故や傷害事件を扱うことが多く、人の痛みに鈍感になってしまうのではないかという不安を抱えていたという。テレビのニュースや新聞の記事だと、どんなに痛ましい事故や事件も淡々と語られているが、その背景には苦しみ思い悩む遺族や関係者がいる。「鈍感になってしまうと、その人が書く記事は時によって暴力になりうる。人の痛みに敏感でいたい。記者として必要な感覚だと思っています。」と話してくれた。ただ、感情移入しすぎても仕事にならないので、バランスを大切にしているそうだ。
 現在入社7年目の服部さん。5年目ごろまでは、地域面を担当していたため、毎日ネタ探しと記事の執筆に追われていたそうだ。それが今になって思えばスキルアップにつながったのでは、と話す。休みの日でも他社の新聞や書物を読み、常に記者でいる姿勢を忘れず、「常にアンテナを張り、好奇心を忘れない。」との思いを大切にしているそうだ。変わりゆく社会の中でもどこか普遍性は存在していると考え、「神奈川から発信していきたい」と今後の目標を語ってくれた。

仕事も家庭も充実した日々へ

 服部さんは、産前から産後まで1年1か月、育児休暇を取得。現在は職場復帰し、パートナーと協力しながら子どもの保育所への送迎を行うなど、お互い仕事に励みながら仕事と家庭生活と充実した日々を送っている。神奈川新聞社は職場復帰する人が多く、男性の育休取得者も増えてきている感触があるという。育休中で人が一人少なくても、皆で助け合おうという精神を持ち仕事をしているそうだ。服部さんの部署にも子育て中の女性がおり、ロールモデルとなっているという。メリハリをつけて、仕事も育児も両方とも充実させたものを実現したい、とワーク・ライフ・バランスへの意気込みを語ってくれた。
 仕事に、家庭生活に全力で取り組む服部さんは、まさに輝いていた。これから社会に出る学生に向けて、「働き方の選択肢はそれぞれだけれど、どんな仕事でもやりがいを見出すことができるものだし、仕事は自分自身も自分の軸もつくってくれるもの。学校で学んだ様々なことを、社会の人々に役立て、仕事の意義を見つけて欲しい。」とエールを送ってくださった。

編集後記

 「育児に関して女性だけという考え方は古い」という服部さんの言葉が響いた。実際に神奈川新聞社では男性も育休をとっているが、「人がいない分、他の人がカバーしよう」という周囲の温かい対応により、多様な働き方が出来ているのだと感じた。男性も女性も互いに支えあい、仕事と家庭のバランスを保つことのできる生活がおくれる人が増えてほしいと思った。仕事も家庭も女性と男性の双方が関わることが、今よりもっと当たり前となる社会をつくるために自分に何が出来るかということを考えさせられた。

取材日 平成27年8月26日
取材者:村上杏菜 荒井伶奈 田中悠貴

※掲載内容については、取材時点での所属、肩書きとなっております。ご了承ください。

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