『対岸の家事』
発行日:2023年3月
著者:宮島未奈
出版社:新潮社
発行日:2023年3月
著者:宮島未奈
出版社:新潮社
地元に住んでいた頃、県外の人に「そこって何があるの?」と聞かれても「何もない」と答えていた。「いろいろある」と言えるようになったのはそこを出てからで、それまでは「地元には何もない」と思っていた。
この本の舞台の滋賀県大津市は、私の地元と同じくらいの人口らしい。でも、この本の登場人物は「ここには何もない」とは言わない。むしろ、そこにあるものやあったものを大事に生活している。主人公の成瀬は、特に滋賀愛が大きい。夏休みに毎日ローカルテレビに映ってみたり、県民割で琵琶湖の遊覧船に乗ったり、市民憲章を覚えていたりする。そこも成瀬の魅力のひとつだが、ほかにも、自分のしたいことをはっきり主張し行動するところも良い。夢は200才まで生きることで、そのために必要な知識を得て不慮の事故にも備えている。発言や行動の結果、笑われたり孤立したりすることもあるものの意に介さず、充実した日々を送っている。
最後の方で「膳所から世界へ」というセリフがある。この後、成瀬は世界に出ていくのだろうか、それとも滋賀にいるのだろうか。どちらにせよ、地元愛は変わらないだろうし、自分を貫くに違いない。「どこに居ても自分らしく生きて良い」成瀬を見ていると、そう勇気づけられる。