『女たちのシベリア抑留』
発行日:2019年12月
著者:小柳ちひろ
出版社:文藝春秋
発行日:2019年12月
著者:小柳ちひろ
出版社:文藝春秋
「シベリアに女の人もいたんですか?」「いや、シベリアに女はいないはずですよ」。これはかつてソ連に抑留されていた元兵士たちの反応である。この本のタイトルを見て、同じように驚いた人もいるかもしれない。しかし実際には、ソ連各地に抑留されていた57万以上の人々の中に数百人の女性たちがいたと言われている。
本書に登場する多くは満州へ渡った従軍看護婦たちだ。ソ連侵攻によって一変した生活は、常に死と隣り合わせ。武器を持って戦場で戦うことだけが戦争ではないことを知る。ある一人は、自身の身を守りながら逃げ続ける事を「これが戦争なんだ」と実感する。その後、彼女たちは連行され、ソ連各地に抑留された。その日々の様子、異国の地での看護、帰国までの出来事が女性の苦悩や悲しみと共に記されている。
戦争中の女性たちは、農場や工場、運輸通信などに従事し、銃後の生活を守ってきた。記録としての映像や文章、女性画家達によって描き残された大きな絵画もある。しかし、シベリア抑留に関しては詳しい記述がない。筆舌に尽くし難い壮絶な体験は形に残されない限り、ひっそりと消失していく。勇気をもって語り、時を経てようやく明らかにされた「歴史から消された女性達」を知る事が出来る一冊。